監督:望月智充
原作: 氷室冴子
厳密にいうと、これを『映画』として紹介するべきか悩みましたが…私は映画館で観たんですよね。
だから、私の中では『映画』です
・高知から上京し、東京の大学に進学した杜崎拓は、吉祥寺駅ホームでたたずむ一人の女性に目が留まった。
その女性は、拓が高知の高校に通っていた時代、東京から転入してきた武藤里伽子というクラスメイトだった。
本人である確証はないが、武藤里伽子だった‥‥ような気がした。
拓は、同窓会のために高知へ帰省しようとしており、飛行機の中で出会った武藤里伽子っぽい女性を思い出しながら、高校時代の想い出を振り返ろうとしていた。
要するに‥‥回想が本編である。
・想い出は高校2年。
拓には松野という、同い年ながら尊敬している親友がいた。
ある日、転校生がやってくるという情報が駆け巡った。都会の東京から、わざわざ田舎の高知に来るんだって!しかも転校生は女生徒で美人ときた!
いつもクールの松野が浮かれている。はたしてどんな子なんだろう?やはり都会っ子なんだろうか?流行の先端なんだろうか?と興味津々だ。
一方の拓は、自分のクラスに来るわけじゃないので、特に何も感じていなかった。
・里伽子はクラスでは浮きまくった存在だったが、本人は全く気にしていないようであった。
松野は、そんな何物にも臆すことなく堂々としている里伽子にいつしか惹かれていくのだが、そんな松野の心に気づいた拓は‥‥なんだか嫌な感じだ。
自分のほうが松野に詳しい。だって親友なんだから。松野の魅力は、つい先日やってきたばかりの里伽子にわかってたまるかと、二人の仲を応援したくない複雑な心を抱えていた。
もし松野と里伽子が恋仲になれば、自分との距離が遠くなってしまうのでは‥‥と、思ってしまうのもまた切ないです。
別に二人の親友関係が壊れるわけじゃないし、自分は里伽子のことはなんとも思ってないのだから、三角関係になることもない。でも‥‥なんか嫌だっていう感覚、ウンウンよくわかるよ。
・季節は流れて修学旅行となり、旅行先はハワイ!
拓は里伽子に、「お金を貸して」と言われてしまう。理由は「所持金を失くしたから」
拓は、自分に借りるより担任に相談するべきだと促す(そりゃそうだ)。
しかし里伽子は「言いたくない」と拒否した。
いきなり金をせびられた拓は、お金の管理に甘い里伽子を責め、なぜ担任に言いたくないのかと尋ねる。
すると里伽子は逆ギレし、「早くお金を貸してよ!」と金を無心する。
根負けした拓は、渋々6万を貸してしまうのである(かなりの大金だぞ)。
・旅行が終わっても、里伽子は拓に6万を返さなかった。
拓は「借りたことなど忘れてしまったように──」と、里伽子の常識を疑うが、拓もきちんと請求したほうがいい。6万借りて返さないって、かなり酷いよ。
・ある日、クラスメイトの小浜から悲痛な電話がかかってきた。
そういえば、この時代ってまだ携帯無いんだ。有線の電話を限界まで引っ張り、誰にも聞かれないよう廊下まで出て、階段で話している。悲しいかな筒抜け状態であるが、こうするしかなかった時代です💧
あまりにも、電話口から聞こえる小浜がテンパっていたので宥め、何が起きたのかを聞いてみる。
「今、空港なの。二人でコンサートにいくつもりだったけど、里伽子ったら、本当はお父さんに会いに行くつもりだったんだって!行き先が違うのよ。お願い拓、里伽子を止めてよ!」
正直、拓にとってはどうでもいい話である。里伽子と小浜が二人でどこに行こうと、知ったことではない。
そのため、つい「どうして俺に言うんだよ!」と怒ってしまった。
すると小浜は「だって里伽子、この日のために拓に6万借りたって言ったの。お金のやり取りするほどの仲なら、里伽子を説得できるでしょ?」
全てを理解した拓は、大急ぎで高知空港へ。
里伽子はお金を失くしていなかったのだ。タクシーの中で、あまりの里伽子の非常識さに呆れてしまう。
怒りに震える拓だが、空港で会った里伽子の青ざめた顔を見て、怒りは一気に消え失せ、一転心配モードになってしまった。
里伽子は「大丈夫。病気ではなく生理だから」と言い、今日を乗り切ればいいだけなので、親には会いに行くという。
逆に東京に行きたくない小浜は、里伽子に「体調が悪いならキャンセルしようよ」と勧める。
小浜も自分のことでいっぱいいっぱいになっており、「里伽子がこのまま体調崩して予定を取りやめにてしてくれたらいいのに」と、かなり酷いことを言っている💨
里伽子は頑として首を縦に振らず、「じゃあ一人で行くからいいわよ」とブチ切れた。
小浜は、里伽子の言葉通り帰ってしまい、里伽子は独りで東京に行くことになってしまった──。
拓は、顔色の悪い里伽子を一人で東京に行かせるのが可哀そうになってしまい、「俺が一緒に行ってあげようか?」と尋ねる。
一応これは、社交辞令のつもりだった。「そんな‥‥悪いわよ」と断るのが普通である。
しかし里伽子は‥‥「ほんと!?」と目を輝かせ、てっきり断るだろうと思っていた拓は、ギョッとしてしまうのであった。
・東京のホテルで、自宅に電話をかける拓と、母親との会話が面白い。
夕飯の時間に間に合わなくなり帰れないことを告げる拓と、だったらいつ帰ってくるの?と尋ねる母親。
東京にいるから夕飯は食べられないと断る拓に、「朝おったじゃない」と笑う母親。
まさか、その時の気分で、パーッと高知→東京に行こうとは思わないよね。
携帯電話が無い時代。すぐに連絡がつく手段が無いので、親は心配だろう。
・東京では父親に会えたものの、すでに新しい家族ができており、自分の居場所が無いことを知った里伽子は、その夜、ホテルの部屋でヤケ酒をあおって寝てしまう。
高知に帰ってきてからも、里伽子のイライラは続いていた。
松野にプロポーズされたのだが、里伽子の癪に障ってしまい、暴言を吐きながら振ってしまう。
それを松野から知らされた拓は怒り狂い(拓もあれからイライラが続いていた)、里伽子と廊下で会うなり大喧嘩に発展する。里伽子は拓にビンタを食らわしたが、拓も手加減なしでビンタを返したのである。
男性の力で、手加減なしのビンタは痛そうだ。
・季節は秋になり、文化祭の準備の真っ最中であった。
各クラス出し物があり、祭りに向けて準備や練習があるものだが、里伽子は一切参加をしなかった。
そのため、クラスの女子から責められ、つるし上げになっていた。
里伽子は『参加したくないから参加しない』という。
確かに、参加は強制ではない。参加したくなければ参加しなくていい。でもさぁ‥‥皆が参加するなら参加する(これは同調圧力になるのか?)のが普通じゃないの?と、リーダーは責めるが、里伽子は一歩も引かなかった。
拓は遠目から見て見ぬふりをして傍観し、一部始終を見られていた里伽子は泣いてどこかへ行ってしまった。
すると、そこへ松野がやってきて、里伽子が泣いていたが、何が遭ったのかと拓に問う。
これこれこういうことが‥‥。すると、なぜつるし上げを止めなかったのかと松野は拓を責め、拓を殴り飛ばして去っていったのだった。
里伽子に責められ、松野にも責められ、ぎくしゃくしてきた仲。
回想を終え、現代から俯瞰する拓は、当時のわだかまりについて想い、あの時代特有の『自我』について振り返るのであった。
スタジオジブリの『若手制作集団』を育てるための企画。
これがヒットすれば、2作3作と続ける予定でしたが、思いのほか伸びなかったため、1作のみとなってしまった(爆)。
実在の風景が随所に登場し、今でも聖地巡礼が絶えません。
若手集団が、若手の感性をもとに若手向けに作ったため、同世代には受けた作品ですが(私は今でも好き)、幅広い世代までは及ばなかったようですね。